TIS株式会社は12月11日、キャッシュレス決済と現金の利用実態についての調査を実施したと発表しました。全国15~69歳の男女600名を対象に、日常生活や冠婚葬祭などにおける全30の支払いシーンでの利用意向を調査した結果、現金とキャッシュレスどちらも使える場合、日常シーンの約7~8割がキャッシュレス利用を望んでいることが明らかになりました。
経済産業省によると、2024年の国内のキャッシュレス決済比率は42.8%と初めて4割を超えており、将来的には80%まで引き上げを目指す方針が示されています。TISは、金融包摂を注力すべき社会課題の一つとして掲げており、安全かつ円滑なキャッシュレス決済を実現するためのシステム開発に取り組んでいるということです。
今回の調査は、日常生活や冠婚葬祭などにおけるキャッシュレス決済と現金の利用実態を明らかにし、現代日本でのキャッシュレス決済の実態と今後のキャッシュレス社会発展の兆しについて考察するために実施されました。
調査手法はインターネット調査で、調査期間は2025年9月10日(水)~9月11日(木)、調査対象者は全国15~69歳男女計600名です。
現金・キャッシュレスどちらも使える場合の利用意向では、日常生活での支払いシーンにおいて約7~8割が「キャッシュレス派」と回答しました。さらに、ご祝儀や香典、お年玉などの冠婚葬祭・儀礼的な支払いシーンでも、他のシーンと比べると割合は低いものの3割以上が「キャッシュレス派」であったということです。
とくに「結婚式のご祝儀を渡すとき」では、20代42.0%、30代43.0%と、他年代と比べて20~30代における「キャッシュレス派」の比率が高く、4割を超えていることが判明しました。若い世代を中心に、今後冠婚葬祭シーンでもキャッシュレス派が伸びていく可能性があるということです。
「どちらも使える場合の利用意向」で最も高いのは「交通手段への支払い」です。「高速道路の通行料を支払うとき」が83.5%、「電車やバスで乗車料を支払うとき」が82.8%と、スムーズな移動に対するキャッシュレス需要の高さが伺えます。
また、「病院やクリニックで診察料を支払うとき」でもキャッシュレス利用意向が73.8%となるなど、実態として現金での支払いに限られることが多い場所でも、キャッシュレスが使える環境であればキャッシュレスを利用したいという意向が全体で見られました。
「どちらも使える場合の利用意向」で現金派が上回るシーンは、冠婚葬祭やお小遣い、お年玉、募金、投げ銭などの「お金を贈るシーン」です。
とくに「結婚式のご祝儀を渡すとき」では、世代別の現金利用意向で60代が最も高く85.0%となり、ほか世代では20代58.0%、30代57.0%となるなど、世代間での意識の差が見られました。
どちらも使える場合に冠婚葬祭シーンで「現金派」と回答した人の約半数が、その理由を「伝統的な慣習だから」と回答しました。
一方、「キャッシュレス派」と回答した人の半数以上が、「現金(新札)の用意が面倒だから」と回答し、キャッシュレス決済による手間の軽減を望んでいることが伺えます。
また「お年玉をもらうときor渡すとき」では、「現金派」と回答した人の理由として「お金のことを考えることができる」「お金の使い方を学ぶ良い機会だから」などが挙げられ、「お年玉を現金でやりとりすること=お金の価値を考える機会」と捉えている人が一定数存在することが明らかになりました。
友人や知人など対人間での金銭授受のシーンにおいて「現金派」と回答した理由としては、「現金の方が安心だから」がトップとなっています。
しかし年代別で見ると、30~50代では「現金の方が安心だから」と「自分はキャッシュレスで良くても相手が使っていないことがあるから」という回答が同じく3~4割程度ずつとなり、相手の環境が整えばキャッシュレスを利用したいという意向が伺えます。
一方、「キャッシュレス派」と回答した理由では、約半数が「キャッシュレスの方がラク・スムーズだから」と回答しており、時短と利便性によるキャッシュレス利用意向が高いことが伺えました。
20代では、「飲み会の幹事に、会費を支払うとき」73.0%、「友人、知人とランチの割り勘をしてお金を精算するとき」72.0%、「友人が立て替えてくれていた旅行代金を支払うとき」69.0%と、他世代よりも友人や知人との金銭授受のシーンにおいてキャッシュレス利用を望む人が多いとのことです。
川野祐司さんは、調査結果から読み取れることについて、以下のようにコメントしています。
結婚式のような儀礼的なイベントで効率性よりも慣習を重視する人が多いのは、お金の受け渡しが単なる価値の移動ではないことを示しているとのことです。同時に、年代別の数字からは「慣習」が時とともに変化することも読み取れるとのことです。
世界のキャッシュレスはさらに進んでおり、世界のほとんどの地域で50%に達しつつあり、日本を含む東アジアでは80%に近づいているということです。
また、世界のキャッシュレスの機能も進化しつつあります。中国のWeChatには「赤い封筒」という機能があり、お祝いやお年玉を送ることができるということです。お金だけでなく、音声の録音、選べるギフトを贈る機能があり、コミュニケーションにも役立っているということです。
EU(欧州連合)では、「デジタルユーロ」の取り組みが進んでおり、2029年に発行される予定となっているということです。ビジネスや生活が効率的になると予想されており、さまざまな事情を抱えた人にも使いやすく、教育しやすい設計を目指しているということです。とくに、お金の使い過ぎや借金を抑える教育が欠かせないということです。
一方で、川野さんは現金が今後も長く残ると予想しています。現金は手元にあると安心感があったり、手渡しには気持ちを伝えやすいメリットがあるということです。生活は効率性だけでは測れず、今後も現金とキャッシュレスは互いに支え合いながら社会を支えていくでしょう、とコメントしています。
津守諭さんは、日本のキャッシュレス決済比率が2024年に4割を超えたことについて、今回の調査結果は実生活での利用実態において、キャッシュレスが自然な選択肢になったことを示しているとコメントしています。さらに、現金しか使えないシーンにおいてもキャッシュレスの利用意向は5割近く、国が目指すキャッシュレス比率8割に向けて、実現可能性を期待できる結果となったということです。
一方で、全てがキャッシュレスになるのでなく、現金だからこその価値も確認することができたとのことです。冠婚葬祭では現金が多く利用されていますが、2割の方が「現金の方が気持ちが伝わる」と回答しているということです。現金は経済的な価値だけでなく、情緒的な価値を持っているといえるとのことです。年代によっても現金とキャッシュレスの感じ方は異なるので、選択肢を持てることがより重要になるということです。
消費性向に目を向けると、価値観が大きく変わりつつあるとのことです。大衆消費から瞬間的なパルス型消費が増加しており、この傾向は対話型AIによる購買で一層加速されます。一方で商品ではなく価値観からはじまるブランドが好まれ、新消費を避ける感謝経済の萌芽も見られます。
今回の調査結果からは、キャッシュレスが利便性の選択肢から、価値観や感情を媒介する社会インフラへと進化しつつあることが見えてきています。TISでは、キャッシュレスサービスによる利便性向上と、消費者の体験をより楽しく、社会とのつながりを感じられるものにする取り組みを、事業者の皆さまとの共創によって進めていくとコメントしています。
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